![]() 今回からガイア・アソシエイツで設計した住宅YS邸を紹介いたします。 「特殊解」的な建築なので参考にはならないかもしれませんが、逆に面白いかもしれません。 この建物は5階建ての住宅です。(それもアパートではなく戸建住宅) 1フロアが25㎡(7.6坪)、そこから階段とエレベーターを引いた部屋として使える部分は僅か15㎡(4.5坪)です。 という事で、各階に居室(食堂・居間・寝室等継続的に使用する部屋)は多くて1室しか取れません。 つまり、大雑把に言えば各階1居室、最大でも9畳の住宅なのです。 なんでこんな変わった住宅を設計したのか、そしてそれはどんなものなのかを説明していこうと思います。 敷地は都心近くの古い町にあり、建築主の奥さんが土地っ子でした。 近所はビルが多めですが、下町的な繋がりの強い土地柄でした。 「でした」というのはそれがばらばらに破壊されたからです。 ![]() 何と目の前に幅員20mの道路が作られる事になったのです。 昔からの計画道路だったようですが、その計画が忘れた頃に動き出したのです。 それも敷地の前面道路幅員を広げるのではなく、既存の街路に関係なく斜めに突っ切るのです。 地元の人達は、そんな意味のない計画が本当に始まるとは思っていなかったようです。 建築主の住んでいた決して広くない長方形の敷地も、斜めに削られる事になりました。 その結果、(2等辺じゃない方の)三角定規に似た形になってしまいました。 そしてそこから目の前のご近所が20mの幅でいなくなってしまうのです。 これを読まれている一戸建てに住んでいる方は、自宅に関してイメージしてみてください。 建築主のお宅に初めて行った時点ではまだ工事前の普通の街並だったので、どうなるかは全くイメージできませんでした。 続く。 KS |
![]() ガイア・アソシエイツで設計した住宅YS邸の続きです。 (過去のYS邸の記事はココをクリック) 道路の為に土地を失う人達だけでなく、土地を削られる人達にも結構なお金(と言っても皆さんの税金)と、敷地が削られた後どんなものが建てられるかの参考設計図も渡されていました。 こういうものが建てられるからご心配なく、という事でしょうか。 僕も建築主が受け取った新築住宅参考案を見せてもらいました。 一見ちゃんと暮らせるように建つように見えますが・・・ 階段は小さく描いてあって防火区画が無いし、収納等はほとんど無いし、その他法規も構造も考慮されていない現実的に成り立っていないものでした。 皆さんも役所のハッタリには注意しましょう。 そんなこんなで、20m道路内の住民等は立ち退き、敷地が斜めに削られる住民等は立ち退きか建て替え、という理不尽な選択を迫られたわけです。 最後まで抵抗していた方々もおられましたけどね。 我々の設計完了頃になると、早めに建て替えを計画した建物が道路の向こう側になる辺りにチラホラ建ち始めました。 写真では分かりにくいですが、どれもプランが三角形や台形で使いにくそうでした。 建て替えなくて済んだ奥の背の高いビルの手前にコバンザメのようにへばりついているように見えました。 我々が設計する住宅もそんな感じになるのでしょうか。 ![]() さて、20m道路は都心の計画ですが、こんな事になってしまっていたのを、東京の土地っ子でも案外実情を知らなかったと思います。 この辺りの住民と用事で来る人ぐらいしか気が付かなかったかもしれません。 あまり報道されなかったのか、この辺りの駅は地下鉄なので車窓から様子を見る機会がなかったのか・・・。 僕達も何の予備知識も無かったので、設計を進めるにあたり役所の担当者と話しました。 工事をさっさと進めたいからかえらく低姿勢なのが不気味でしたが、間延びした計画だからか他人事のようなのも気になりました。 ![]() 続く。 KS |
![]() ガイア・アソシエイツで設計した住宅YS邸の続きです。 (過去のYS邸の記事はココをクリック) 今回は新築した住宅の計画内容について説明いたします。 住まうのは高齢の夫婦です。 5階建てと言っても、最上階は物干の為屋上に出る階段室だけです。 他の階にバルコニーを設ける余裕はありませんでした。 そして狭いながらもエレベーターは必要です。 エレベーターがあっても避難の為の階段は必要です。 階段は他の部屋と竪穴区画をしなければならないので、各階に重い鉄扉の防火戸が必要です。 エレベーターや階段を除くと残りは9畳程度の直角三角形。 図面上ではそれらしく描けますが、狭い三角形に実際に快適に住む事ができるか、とても心配でした。 そこで自分のアトリエに綱を張って現物と同じ空間を作ってみたりもしました。 ![]() 建築主との打ち合わせの結果、建物の構成は・・・ 1階:玄関・浴室・脱衣室・便所 2階:DK(1階への利便性の為) 3階:寝室・便所付洗面室(DKと近い階にしたい為) 4階:居間兼客間(眺望の為) 5階:ユーティリティー(室内物干・物置等) 計画当初、鉄筋コンクリート造と鉄骨造との両方で検討を始めました。 が、すぐに鉄筋コンクリート造は構造的に難しい事が分かりました。 ラーメン(柱・梁)構造だと、太い柱や梁が邪魔をして居住スペースが小さくなるし、壁構造だと思った位置に十分な開口部が取れません。 また、鉄筋コンクリート造にすると建物が重くなり、敷地の地盤が軟弱なので、鉄骨造に比べて杭の値段も割高でした。 という事で建物自体の値段も比較的安い鉄骨造になりましたが、3角形(正確には3角形の角の取れた4角形)の変わった平面形状とスケール・メリットの無さ、深い杭の必要性とで結構な値段の建物になりました。 最後に外観のデザインについて。 ファサード(立面の正面側)は最初の模型写真のようになりましたが、裏は隣りのビルにピッタリ付いているので割り切ってこんな。 ![]() 昔はこういうのを「びんぼっちゃま建築」なんて呼んでたっけな??? こういった裏表のある建築を造るのは本来嫌いなのですが、建て込んだ都心の商業地域なのと、予算の関係から涙を飲まざるを得ませんでした。 (確かに建物ができてみると、この面はほとんど見えませんでしたが。) 続く。 KS |
ガイア・アソシエイツで設計した住宅YS邸の続きです。
(過去のYS邸の記事はココをクリック) 前回ブログから時間が経過して・・・設計が完了、見積で金額も確定して施工会社が決まり、着工する運びとなりました。 その頃になると周辺は立ち退いた空地が増え、都心なのに殺伐とした風景になっていて唖然としました。 空地の周囲にはフェンスが作られ、なんか悪い事が起こっているムード満点でした。 ![]() さて、敷地のある港区はとんでもなく軟弱な土地があるので注意です。 (土地の名前はチェック・ポイントのひとつですね。・・・沢・沼・川・谷・窪などなどなどが付いてたら・・・) この計画では小さな住宅なのに鋼管杭を8本、深さ20m近く打ちました。 次の写真は杭を並べて検査しているところ。 ![]() そしてこんな感じで杭の打設をします。 最初は見ていて面白いのですが、8本もあると途中から退屈しました。 ![]() ある時、現場近くの20m道路の工事を見ていたら、単管(金属製の細いパイプ)を垂直に埋めようとしていました。 ところが驚いた事に、単管を重機で垂直に立てただけで自重で沈んでいくのです。 単管って足場などに使うパイプなんで、金属としてはそれほど重くないんですけどね。 そんな軟弱な土地なので、基礎工事は重要だと再認識しました。 思うに日本で幅より背の高い建物に住むのはどうなんでしょうね。 さて、現場では「新しくできる道路のレベル(高さ)がはっきりしていない」という問題が発覚しました。 (役所もしっかりして欲しいですよね。) この辺りは大雨の時、付近の道路は川のようになるそうです。 新しい道路より建物の玄関ポーチを(勿論1階床も)ちゃんと高くする必要があるのです。 因みに、道路ができた後に分かったのですが、早い時点で建て直した建物を見てみると、道路より玄関が低くなってしまっているものがいくつもありました。 この建物ではそのような事にならないよう、道路計画の最新情報収集、周辺建物の入口高さ調査を十分に行いました。 後からではどうにもならないですからね。 続く。 KS |
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(過去のYS邸の記事はココをクリック) 前回のように杭工事が終わるとその上にのっかる基礎を作ります。 地下室はないのに結構深く掘らなければなりません。 写真の職人の大きさからしても、鋭角三角形の小さな家は色々な面で難しそうな事が分かります。 設計も工事も住むのも・・・。 ![]() 基礎が終わると上屋を建てるわけですが、鉄骨造は鉄筋コンクリート造に比べてどんどん出来上がっていきます。 勿論、骨組みを工場制作するための図面のやり取りを綿密におこなった結果なのですけどね。 (木造のように修正が簡単ではないので、違っていたりすると結構厄介です。) ![]() 床はデッキプレートという波々の金属板を敷いて、鉄筋を配して・・・ ![]() その上にコンクリートを流します。 仕上がったのが次の写真。 床の長方形の凹んだ部分は人がすっぽり入れるでっかい床下収納です。(何せスペースが足りない家なもので) ![]() 次の写真は床のコンクリート打設をしているところです。 傍から見ていると何だか楽しそうですね。 いろんな階でいろんな作業をしているので、アント・ファームを見るようでこちらも楽しめます。 ![]() 床の作り方としてはコンクリート・パネル等を敷く工法もありますが、上記の方が床として確実性があるように思います。 続く。 KS |